ハイヒール

 
中日新聞 「くらしの作文」
掲載文  2013.9.21  ハイヒール
 
文化教室の申し込みに行くため、久しぶりに街へ出かけた。
(人が多いな)と感じながら歩いていると、前方からハイヒールがとてもよく似合う格好いい女性が歩いてきた。早足だったため、見とれている間もなく擦れ違った。
もう少し眺めたい思いがあったが、周囲の目が気になり、振り返らなかった。
ふと、以前、ポリオ(小児まひ)の後遺症に悩む人たちが支えあい、病気への理解を深める活動をしている「東海ポリオの会」で一緒だった女性の言葉を思い出した。
「一度でいいからハイヒールを履いて街を闊歩してみたいの」ポリオで不自由になった脚では難しい話だ。が、同じポリオの仲間として、その願いに共感を覚えた。彼女はまた、こうも語った。「杖を頼って歩くことができている今、母がどんな思いで育ててくれたか思うと、ハイヒールの夢のことは母には言えません。でも、できないことでも夢を持つことは楽しい」
遠ざかる足音に、彼女の夢を重ね合わせた。彼女が好みのハイヒールを選び、楽しそうに歩く姿が目に見えるような気がした。